ショウジョウバエ デュアルgRNA発現pattBベクター

概要

当社のショウジョウバエ デュアルgRNA発現pattBベクターは、デュアルガイドRNA (gRNA)を発現するトランスジェニックハエを効率よく作製することができます。当システムでは、バクテリオファージφC31インテグラーゼが介する組換えによって、効率よく標的部位にgRNAを挿入することができます。

CRISPR(clustered regularly interspaced short palindromic repeats)/Cas9システムは、さまざまな生物において、in vitroおよびin vivoで、遺伝子を不活性化することができます。Cas9は18‐22ntの標的配列と配列特異的な相互作用をするガイドRNA(gRNA)と複合体を形成します。gRNAの標的配列へのハイブリダイゼーションによってCas9はゲノムの標的配列を切断します。Cas9はゲノムをスクリーニングし、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)NGGの直前に位置する、gRNAに相補的な配列を切断します。二本鎖切断はその後、相同組換えまたは非相同末端結合によって修復され、その結果、様々な長さのインデル(ゲノム中への数塩基の挿入または欠失)が作出されます。CRISPR/Cas9システムでは、オールインワンベクター(Cas9とgRNAを共発現するベクター)あるいはそれぞれCas9とgRNAを発現する別々のベクターを導入するだけで、ショウジョウバエノックアウト株を迅速に作製することができます。

attBベクターシステムは、大腸菌プラスミドとして設計された2つのベクターから構成されています。1つはattBベクター(あるいはattBサイトと目的遺伝子を搭載するφC31ドナーベクター)で、もう1つはφC31インテグラーゼを搭載するヘルパープラスミドです。attBプラスミドとφC31ヘルパープラスミドをattP“着地点”サイトを持つ宿主細胞に同時に注入すると、φC31インテグラーゼによってattBサイトとattPサイト間で組換えが生じ、直鎖化されたattBベクターが宿主ゲノムへ組み込まれます。あるいは、ドナーベクターをショウジョウバエφC31インテグラーゼ発現株の細胞に注入しても、組換えを生じることができます。

バクテリオファージφC31はattP(phage attachment sites)とattB(bacterial attachment sites)サイト間で、配列特異的な組み換えを媒介するインテグラーゼです。attBのattPへの挿入により、φC31インテグラーゼに認識されないハイブリッド配列(attLとattR)が作出されるため、P因子トランスポゾンによる組み換えとは異なり、φC31インテグラーゼによる組み換えは不可逆的です。加えて、φC31インテグラーゼによる組み換えはattPサイト特異的なので、その他の配列への挿入は起こりません。attBベクターシステムはゲノムのattP“着地点”サイトをもつショウジョウバエ株で使用できます。

attBベクターでは、gRNAの開始と終結は、それぞれU6-1(あるいはU6-3)プロモーターとターミネータによって調節されています。また、attBベクターのvermillion遺伝子は目の色を決定し、遺伝子導入が成功したトランスジェニックハエの同定に使用されます。本gRNA発現pattBベクターとφC31インテグラーゼ発現ヘルパーベクター、またCas9発現ベクターをショウジョウバエ初期胚に同時に注入することにより、遺伝子ノックアウト株が作出できます。当ベクターでは、それぞれ異なる部位をターゲットとする2つのgRNAによって、編集効率を向上させることができます。

当ベクターシステムに関する詳細な情報ついては下記の論文を参照してください。

文献 トピック
Proc Natl Acad Sci U S A. 97:5995 (2000)
Proc Natl Acad Sci U S A. 97:5995 (1998)
Description of the φC31 integrase system
Proc Natl Acad Sci U S A. 104:3312-7 (2007) Generation of φC31-based transgenic Drosophila
Science. 339:819-23 (2013) Description of genome editing using the CRISPR/Cas9 system

特長

当社のショウジョウバエ デュアルgRNA発現pattBベクターは、バクテリオファージφC31インテグラーゼによって、効率よくデュアルgRNAをショウジョウバエゲノムに挿入できるよう設計されています。

メリット

配列特異的な挿入: φC31インテグラーゼによる挿入は配列特異的で、attPサイトでのみ生じるため、宿主の遺伝子を破壊したり、挿入部位の位置効果によって導入遺伝子の発現が影響を受けるリスクを軽減することができます。

高効率:φC31インテグラーゼによる生殖細胞への遺伝子導入は、P因子トランスポゾンを利用したpUASTシステムよりも高効率です。

デメリット

技術的な煩雑さ: トランスジェニックハエの作製は胚へのインジェクションやハエの飼育・交配など、高い技術が必要となります。

attPサイトが必要:pattBベクターシステムを用いたトランスジェニックハエの作製には、あらかじめattP“着地点”サイトがゲノムに導入された特別な宿主株が必要です。

基本コンポーネント

U6-1: Pol lll プロモーター。Drosophila melanogaster でsmall RNAを中程度に発現させる。

gRNA: Cas9の種類に適応するgRNAを使用する。

Terminator: ガイドRNAの転写を終結させる。

U6-3: Pol lll プロモーター。Drosophila melanogaster でsmall RNAを強力に発現させる。

pUC ori:  pUC複製起点。E.coliでプラスミドを高コピーで維持する。

Ampicillin: アンピシリン耐性遺伝子。E.coliへのアンピシリン耐性によるプラスミドの維持を可能にする。

Vermilion: ショウジョウバエ形質転換の選択マーカー。茶系眼色色素の合成に必要な酵素。

attB site: バクテリオファージφC31インテグラーゼによって認識されるattBサイト。φC31インテグラーゼは宿主ゲノムにあらかじめ導入されているattPサイト特異的にattBプラスミドを挿入する。

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